「嫌ぁぁぁあああああああああ!!!!!」
 少女の叫び声が闇に響いた。誰もいない路地裏で少女は小さな身体をまるで小動物
のように震わせていた。びくびっくと小刻みに動く頬にタラリと水滴が流れ落ちる。
体が勝手に動く。自分の体なのに思うように動いてくれない。
       ガタリ
 少女の耳に何かが乱暴に崩れ落とされたような音が耳に入った。
来た!
少女の体全体が陸に打ち上げられた海老のようにびくびくっと動き出す。頭の中の方
も体と同じで
  冷静になれ! という自分の意思を無視して、ただただ混乱することしか出来な
かった。
      ガタリ 
 音がさっきよりも近づいてきた。だが、少女にはもう逃げ道などなかった。少女は
背後にある冷たいコンクリートの壁に寄りかかってただ、わんわんと泣き喚いた。
  ガタリ
 ガタリ
「嫌ぁぁああああああああああああああああ!!」
 少女は涙と叫び声を同時に信じられないくらい大量に発生させた。
ガタリ
そして、ついに少女の視界に音だけでなく自分の命を狙う男の姿が再び飛び込んでき
た。
「何なのよっ!? アナタぁ!?」
 少女は男に向かって叫んだ。  今日、高校から帰宅していた自分を延々、30分
程もナイフ片手に追ってきた見るからに筋肉質の男・・・・
男は無言でニヤリと笑みを浮かべた。少女は何をすることも出来なくて、ただ足をバ
タバタさせた。
そして、次の瞬間
「嫌ぁぁあああああああああああああああ!!!」
 少女は今日、何度目かの絶叫を発した。そして、それがその少女の最後の発した声
となった・・。

カシャン、男はビデオを停止させた。その右手にはリモコン、そして左手にはクチャ
クチャになったティィッシュを握っていた。
「はぁ。」
 男は小さくため息をついた。





















舟木海













ゴン! 舟木の背中に思いっきりバスケットボールが直撃した。
「ごっめんねぇ。」
 すぐにボールの主から謝罪の言葉が届く、だが舟木にはそれが不快だった。どう
せ、ワザとなんだからいちいち謝らなくてイイ。だが、その思いを顔に出してはいけ
ない。そんな顔を見せたら彼女に何をされるかわかったもんじゃない、だから舟木は
「うん、大丈夫。気にしないで。」
 と言って足早にその場を去った。


「ふぅ」
 舟木は校庭にあるイチョウの木の影にペコと腰を掛けた。今は一人が一番、落ち着
く。昔はあんなに一人が嫌だったと言うのに・・。
 舟木が、ここ鳳高校に入学してからそろそろ一年が経つ。今、思えば楽しい高校生
活と言えたのは最初の三ヶ月ぐらいしかなかったような気がする。
いじめ
 テレビやドラマでは良く見ていた光景であったが、まさか自分がそのターゲットに
されるとは思っても見なかった。
 それは、あまりにも突然に始まった。
掃除の時間
「今日は特別にキレーイにおそうじしましょう
か?」
クラスの明るいムードメーカーでキレイなロングヘアーがチャームポイントの後藤真
希がそう言って突然、冷たい水がたっぷり入ったバケツを持ち上げた。後藤はよく
ギャグを言ってクラスを盛り上げる子だったので舟木は彼女が何か楽しいことを思い
付いたのだと思い、笑って彼女の方を見た。だが次の瞬間、舟木の笑顔にバケツの中
の冷たい水がぶっ掛けられた。
舟木には何が起こったのか一瞬、理解できなかった。だから、何も考えずにただ、
「え?」
 と一言、発した。その(え)が何の(え)だったのかはわからない。ただ、舟木の
頭の中にはこういった時にどうするべきなのか? を考える情報が全く用意されてい
なかった。

 その日の帰り、舟木は中学からの親友である深谷恵に今日あったことを相談した。
深谷は舟木の話を聞くと見る見る顔を真っ赤にさせ
「何、それぇ!? 信じらんない!! いいよ、明日、私が真希に文句を言ってやる
!!」
 と一昔前の熱血ドラマの主人公のようにぎゅっ
と握り締めた。そんな親友を見て舟木はようやく
不安な気持ちから少し開放された気分になった。

「ただいま。」
ダレもいない我が家に帰ると舟木はすぐにブレザーの制服を脱いでソファーの上に置
いた。制服というのはどうしても苦手だ。別にデザインとかは嫌いじゃないけど、何
か堅苦しいというか・・制服を脱いでようやく学校が終わったという気になる。
「はぁ」
 舟木は2階にある自分の部屋のピンクの布団が敷かれたベッドにバタンと横になっ
た。今日はいろいろあったなぁ、いつも毎日がメチャクチャ楽しいっていう生活をし
ているわけでもないけどやっぱり特別、変わったことなんてない方がイイみたい。
 何か不安だった。一人で横になっていると悪い方、悪い方に考えていってしまう・
・・



でも・・
 今になって思えばあの時の想像なんて翌日からの現実と比べればどうってことな
かったのだ。

ガラガラ、いつものように教室に入るとクラスメイト全員が舟木の方を見た。
「え、どうしたの?」
 わけもわからず皆に尋ねるが誰も口を開こうとしなかった。ただ黙って自分の方を
見ている・・。
わけもわからず席に着くと比較的、仲の良い渡邊真里菜が近くにいたので
「ねぇ、何かあったの?」
 と聞いた。すると渡邊は青ざめた表情になり舟木をギロリと睨んだ後、感情のこ
もっていない声で
「キモチワルイから、話し掛けないでくれる?」
 と言った。
「え?」
 舟木には何が何だかわからなかった。

誰も話してくれないまま、午前中の授業も終了しランチタイムになった。舟木は急い
で隣の隣のクラスの親友、深谷恵のもとへ走った。頭の中には最悪の想像がぐるぐる
回っていた。

私、いじめられてる!?
何で? ううん、違う、違うってば。だって私、何も悪いことしてないし、目立つよ
うなことだってしてこなかったもん!
「恵!」
その声はまるでヒーロー物の番組でヒーローに助けを求めるヒロインのような声だっ
た。その声を聞いて今の自分がかなりアセっていることが自分でもよくわかった。
だから、自分ではわからないのだが目もまるで捨てられた犬のようにとてつもない不
安そうな目をしていたに違いない。
そんな舟木を大親友はクラスの人間と同じ目でジッと見ていた。
「恵?」
 舟木はふらふらと深谷に近づいていった。だが舟木が一歩、近づくごとに深谷は一
歩、舟木から離れていった。
「どうして?」
 ポタポタと気が付くと舟木の両目からは涙が流れていた。初めはわずかの量だった
が自分が泣いていることに気が付くとダラダラと次から次に涙が大量に出てきた。
中1から仲が良かった恵、
一緒の高校、行こうね。と言ってきた恵、
いつも、一緒に帰っていた恵、
その恵が・・・・・
「こっち来ないでくれる?」


 その後、舟木は泣きながら教室を飛び出しお弁当箱を放り投げ廊下を走っていっ
た。自分でもどこに走っていけばイイのか、これからどうすれば良いのか全然わから
なかった。


そして、
そして、
 それから舟木は常にいじめのターゲットとされることになるのだった。

キーンコーンカーンコーン     
 チャイムが鳴った。午後の授業が始まる。またクラスメイトと顔を合わせることに
なる・・。舟木は憂鬱だった。

バシ! ほうきの先が細い舟木の体にぐりんとめり込んだ。
「痛っ」
思わず両目をぎゅっと閉じた舟木を見て女子グループは、ハハハと声を出して笑っ
た。その様子を女子グループの背後から後藤がにやにやしながら見ていた。もう、い
つものことではあったが何故、自分がこんな目にあわなくてはいけないのか?くやし
くて頭の中がカーッとなった。そして舟木はつい皆をキッと睨みつけてしまった。
「なにぃ、その目ぇ?」
 皆はすぐにそのことに気づく。そして
「あんた、怒ってんの?」
「いい度胸してんじゃん」
 皆が舟木の周りを取り込んだ。舟木は小さな体を震わせて
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんあさい、ご
 めんあさい、ごめんなさい、」
 と自分は何も悪いことをしていないのがわかtっていながら謝り続けた。
「いいのよ、別に。」
 そんな舟木の耳にとっても陽気な後藤の声が入ってきた。
舟木は後藤の方を見た。ぼやけた後藤の顔を見て初めて自分が泣いていることに気づ
いた。
「あなたはさぁ・・」
 ぼやけた後藤が近づいてくる。
「ゴミなのよ」
 ぼやけた後藤は一言、キッパリとそう言った。
「え?」
 舟木はしっかりと耳に入っていた言葉を思わず聞きなおした。そんな舟木を見て後
藤はニッコリと笑った。
「だからぁ、アナタは粗大ゴミなの。私、キレイ好きだからアナタのことを片付けた
いのよねぇ」
 ゴミ・・?、私が?
  舟木の頭の中に衝撃が走った。そうか、この子達には私、人間とも思われてな
かったんだ・・
後藤は床に放り投げてあったほうきを拾いあげた。
そして、そのほうきで思いっきり舟木の右足首をたたいた。
痛かったが舟木は何も言えなかった。変わりかどうかはわからないが後藤が目の色を
変えて
「あんたを見てるとイライラすんのよ、本っ当に大っ嫌い!!」
と、もう一発、もう一発、舟木の全身をほうきで思いっきりたたき回した。
がくん
 舟木は教室の床に横に倒れた。舟木は下から後藤を見上げた。後藤は冷たい目で舟
木を見下ろしていた。そして、一言こう言った。
「このゴミ!」



掃除の時間も終わり今日の学校も終わった。後はいつものように一人で帰るだけだ。
「恵ぃ、待ってよう!」
 急に舟木の耳に入ってきた甲高い声に舟木の体はビクッと反応した。
「遅いぞ、ちりぃ。」
 間違いない恵の声だった。何かが狂ってしまったあの日までは一緒に帰っていた一
番の親友の恵の声だった。
 何で、こんなことになっちゃったんだろう・・
気がつくと、また涙が出そうになっていた。何だか最近、泣いてばっかりだ。


とぼとぼと、舟木は町の中を歩いていた。友達どうし、恋人どうし、楽しそうにして
いる人が目に飛び込んでくる。いいなぁ、楽しそうでいいなぁ・・
舟木は何だか自分の胸がキュンと痛くなるのを感じた。
その時だった。
「大丈夫?」
 男の人の声が聞こえた。
「え?」
 顔を上げると自分より25、6センチぐらい大きい長身の同い年くらいの男が立っ
ていた。
「どうしたんだい、何かあったのかい? 涙なんか
 出して。」
 ドキッとした。優しい声をかけられたのなんて本当に久しぶりだったから・・。そ
して、舟木は彼の言葉で自分が今、泣いていることに気づいたのだった。
「大丈夫です、何ともないですから。」
 舟木はペコリと頭を下げて少し足早にその場を去った。
何でこんなに嬉しいんだろう? いや、原因はわかっていた。 今日、クラスの女子
に言われた言葉・・
 あなたはゴミなのよ。
 でも、私はやっぱりゴミなんかじゃない、涙を流していれば知らない人だって心配
してくれるのだから・・・。



 それから2週間が経った。相変わらず舟木はいじめられっぱなしであった。
「つっ。」
 椅子の上には画鋲が置かれていた。まるで小学生のいじめみたいだが舟木には小さ
ないじめの一つ、一つが辛かった。
「舟木さん。」
 珍しくクラスメイトから声をかけられた。
「何?」
 ちょっとだけ気分良く声の方を振り向くと声の主は百円玉を差し出し
「ジュース一本、買ってきて。足りない分は自分で出してね。」
 とにこやかな顔で言った。

ガシャン、20円を財布から出し、ジュースを購入した。自動販売機の隣には空き缶
用のゴミ箱がある。
クラスのみんなには、私もあの中の空き缶と同じように見えているんだろうか?  
何だか、また泣きたくなってきた。最近は本当に泣いてばかりいる。


今日から七月、そろそろ夏休みだ。  また、一人っきりの夏休みかぁ・・。そんな
ことを考えながら舟木はいつも通りの道を歩いて帰っていた。でも、まぁ皆に会わな
くて済むだけイイか。そんなことを考えていた時だった。
「あれ、久しぶりだね。」
 一人の男が声をかけてきた。舟木には最初、その男が誰なのか思い出せなかった。
「あー、覚えてないか、そりゃそうだよね、一回会っただけだもんねぇ。」
 そこまで彼が言った時、舟木もようやく、その男のことを思い出した。
「あー、あの私が泣いていた時に声をかけてくれた・・。」
「そうそう。」
 男はニッコリと笑った。

気が付くと舟木は彼の誘いで公園のベンチに腰をかけた。
「何か、また会えて嬉しいなぁ」
 男が髪をかきながら言った。
「本当ですか?」
 舟木は思わず真剣に彼の顔を見た。
「そりゃ、会いたかったさ。」
「どうして?」
 舟木は自分がどうしても彼の気持ちを知りたがっていることに気づいた。人に、他
人に大事に思われたかった。 だから、彼の
「だって、君 めっちゃカワイイんだもん。」
 という質問の答えを聞いた時の嬉しさと言ったらなかった。
「かわいい? ・・私が?」
 思わず舟木は確認をしてしまった。ジョークだよ 等と言われやしないか・・と
ちょっとドキドキもした。そんな舟木に男は恥ずかしそうに話し出した。
「いや、かわいいって見た目もそりゃ、そうなんだ   けど性格っていうの? 仕
草ていうかー、そのー
 とにかく全てがかわいかったてこと。」
 舟木は男の一言、一言に勇気付けられている自分に気づいた。
だから、
「あの、あなた、名前は?」
「俺? 俺は安藤進。」
「安藤さん、ありがとう。」
 舟木は深く頭を下げお礼を言った。
「また会おうよ。」
 そんな舟木に安藤はそう言った。
「ハイ!!」
 舟木は当然、そう答えた。


それからの舟木は今までと比べると全然、楽しい毎日を過ごした。学校でのいじめは
相変わらずであったが今は自分を必要としてくれる人がいる。
毎日、毎日、学校の帰り道に安藤は待っていてくれた。舟木は幸せだった。
「今日、ウチ来ない?」
 そんな生活が始まってちょうど二週間が経った日、夏休みも直前のその日に安藤
が、そんなことを言ってきた。  舟木は三十秒ぐらい考えたが
「うん!」
 と返事をした。



「大きいー。」
 安藤の家を見て最初に口から出た言葉がそれだった。いくら東京みたいな大都会で
はないって言ったってこの大きさは普通じゃなかった。庭の広さは千坪はあるし、三
階建ての家の他に倉庫などもある。
「安藤君ってお金持ちなの?」
 そう問うと、
「んなことないよ。」
 と安藤は笑顔で首を横に振った。そして、スタスタと自分の家に向かって歩いてい
た。
「さぁ、どうぞ。」
 大きな扉を開くと大きな玄関があった。
「何から何まで大きいねぇ。」
 舟木は感心したように言った。そこに安藤の
「じゃ、俺の部屋にでも行くかい、地下にあるんだ。」
 という言葉が入ってきて
「え! 地下室まであるの!?」
 とさらに驚くことになってしまうのだった。


コツン、コツン、 音をたてながら地下へと下りて行く。
「何だかドキドキするねぇ。」
 舟木はそんなことを言った。

やがて、二人の前には大きな鉄の扉が現れた。
「これが、安藤君の部屋?」
 自分の部屋とは全く違う感じのする扉だったが、その辺も何だかお金持ちって気が
しないでもない。
「中は、どうなってるの?」
舟木は全身を少し斜めにして言った。
「見たい?」
 安藤は微笑を浮かべながら聞いた。
「うん、見たい、見たいよう。」
 舟木は、うんうんと首を縦に振りながら答えた。
それを見て安藤は微笑から満面の笑みの顔に変えて言った。
「じゃぁ、見せてあげるよ。」


バン!
 扉が物凄い音をたてて開いた。舟木は思わず両耳を両手でおさえたが、
「ひっ!」
 という言葉と同時に次に両手で両目をおさえた・・が、慌てて両手をどかし、その
部屋をじっくりと見た。

その部屋の中心には耳の大きな怪物の石像が一つあった。そしてその石像を囲むよう
にベッドが二つ、巨大な、それこそ水族館にあるような巨大な水槽が一つ、
 そして、昔の外国のような巨大なギロチンが一つ、他にもよくわからないコードな
どがたくさんあったが何よりも舟木を驚愕させたのは部屋に転がる首から上と下半身
が離れた女性が一人、全身、穴だらけの女性が一人、転がっていたことであった。
「あ・・、安藤君、な、何、コレ?」
 舟木の全身は小刻みに揺れていた。頭の中は完全におかしくなっていて、この状況
のことも何が何だかわからなかった。
「舟木さん」
「は、はいっ。」
 安藤の声に舟木の全身が大きく揺れた。そんな舟木を見ながら安藤は
 「俺は君のことが大好きなんだ。」
 とても明るい口調で言った。それは、この状況でなかったらとても舟木を感動させ
てくれた言葉であったのだろうが今の舟木には無気味な印象しか与えなかった。
「じゃ、少しの間、お休み。」
 安藤はそう言うとポケットの中から一枚の黄色いハンカチを取り出した。






う・・ん、
 舟木は目を覚ました。まだ、現状は理解していない。目を覚まして最初に気が付い
たことは自分がさっきの部屋にいるということ・・、そして次に気づいたのが、自分
がさっきのベッドで仰向けになって寝かされているということ・・、そして、両手首
と両足首には手錠がかけられていてベッドから動けなくなってしまっているというこ
と。
 何なの、本当に何が何だかわからないよ。
舟木が不安そうに部屋を見回すと(自由がきかないので見えない部分もあったが)安
藤がギロチンの前で笑みを浮かべながら立っていた。
「安藤君?」
 舟木はすがるような目で安藤を見つめた。安藤は、コツコツと音をたてながら舟木
に近付いてくる。
「君の寝顔、かわいかったなぁ。あ、安心してね、キスとかそういうヤラシイことは
してないから。」
 安藤はいつもの学校帰りに会う時と同じようなトーンで話しかけてきた。
「これ・・、これ、安藤君が?」
 舟木は手錠をぐっと引っ張りながら聞いた。手錠はとてもきつく締められていて手
首、足首、どちらにも痛みがある。
「あぁ、その手錠なら俺が用意した。」
 安藤は、あっけらかんにそう答えた。舟木は少しの間、驚きのあまり黙り込み、そ
の後に
「どうして・・?」
 と聞いた。そして、舟木は自分が眠りつく前のあのことを思い出してしまった。
「そ、そうだ、さっき、あの部屋に死体が転がって たわよ! あ、あれは・・。」
 気が付くとさっきの死体は見当たらなくなっていた。
「俺は君のことが大好きなんだ。」
「質問に答えてよ!!」
 舟木は不安の大きさに比例して大きな声で叫んだ。まさか、これってニュースとか
で見たことがある、レイプとかいうヤツ?、そんな、まさか安藤君が・・?!
「大丈夫、君の考えてるようなことはしないよ、俺はレイプ犯みたいなクズとは全
然、違うから、やらしいことなんてしないし興味もない。」
 そう言って安藤は蝋燭を床から拾いあげた。
「今日、俺が君をウチに呼んだ理由を教えてあげるよ。」
 安藤は蝋燭にライターで火をつけた。
 「今日は俺の誕生日なんだ。」
 火のついた蝋燭を持ちながら安藤は舟木に近付いてくる。
「だから、君に来て欲しかった・・。」
安藤は火のついた蝋燭を舟木の足に近づけた。
「ちょ、ちょっと危ないよ!!」
 舟木が叫んだその時、
ビチョン
「あああああぁああ‘あああ!!」
 舟木の体に痛みが走りぬけた。安藤が蝋燭の蝋を舟木の足の上にたらしたのだっ
た。
「はぁ、はぁ、な、何するの!?」
舟木は安藤の顔を見上げた。
「まぁ、落ち着いて、ほら。」
ビチョン
また熱い蝋が舟木の足にたらされた。
「あっあああ あ。」
舟木には何が何だかわからなかった。何で自分がこんな目にあっているのか、何故、
安藤がこんなことをしているのか?
「どうして、どうしてっ、こんなことをーー!?」
舟木が、そう叫んでいる最中にも熱い蝋は舟木の足の上にたらされる。
熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い!!!
「やめてー、やめてよーっ!!」
舟木は泣き叫びながら両足をバタバタと動かす。だが、その度にきつく締められた手
錠により新しい痛みが体中を走りぬける。
「どうして、どうして、こんなことをっ!!」
 もう、何が何だかわからない。ただ一つわかることがあるとすれば安藤により身動
きを封じられ熱い蝋燭の蝋をたらさせているということだけだ・・。
その時だった。
「動かないで!!」
 安藤が叫んだ。舟木は思わず動きを止めた。
カーンと音をたてて、蝋燭は床に放り投げられた。終わった、何だかわからなかった
けど、コレは終わったんだ・・、舟木は心底、ホッとした。
だが、安藤は
「ハッピバースデイ テゥーユー ハッピーバースデイ」
 と静かに歌いながら、赤と青と黄色のさっきの蝋燭より二周りくらい小さい蝋燭を
取り出した。そして、さっきと同じようにまずは赤い蝋燭に火をつけた。
「な、何なのぅ!?」
 叫びながら舟木の体はビクンビクン震えた。心臓の音もドックンドックン、よく聞
こえた。
そんな舟木の震える足に安藤は赤い蝋燭を立たせた。
「良しっ!」
 安藤は笑った。舟木は5秒ほど考えて安藤が何をしようとしているのか、わかっ
た。
安藤は自分の足の上に自分の年齢分の蝋燭を立たせようとしているのだ。そのために
自分の足の上に蝋をたらしていたのだ。でも、何でそんなことをするのか、それは
ちっとも理解できなかった。
気が付くと安藤は舟木の足の上に赤、青、黄色の三本の蝋燭を立てていた。
「いつからだろう、十歳を超えた頃からかな、年の分も蝋燭を立てなくなったよ
なぁ。」
 安藤は少し悲しそうにそう言った。
だが、本当に悲しいのは舟木の方だ。
信じてたのに、
頼りにしてたのに、
・ ・・・・・好きだったのに。
「何でぇ! 何で、こんなことをするの!?」
 舟木は両目から昔のマンガみたいにものすごい量の涙を流しながら叫んだ。
「それに、さっきまであった、あの人達の死体は何なのっ!!」
そう、今、一番知りたい、いや、もしかすると一番知りたくないことかもしれないこ
とがそれだった。
舟木の問いに安藤は顔を下に向けて黙り込んだ。
二十秒ぐらいたって、沈黙を破ったのは安藤だった。
「舟木ちゃん、俺、大好きな人は殺したくなっちゃうんだよねぇ。」
 安藤は愉快そうに、そして下品に笑った。


「ちょっと待っててね。」
 安藤はそう言って部屋の中をごそごそ、いじり始めた。
そんな安藤を見ながら舟木は必死に考えていた。
 どういうこと、好きな人を殺したくなる?  ・・ということはさっきの死体は
やっぱり・・? でも、あの安藤君が!?
「ね、ねぇ、安藤君、これってドッキリか何か?」
 そんなわけないことは蝋燭を立たされた足を見ればわかることであったが舟木は安
藤が笑って、
(そうなんだ、ごめんね。)と言ってくれることを期待した。
だが、安藤は両手に赤いコードを持って
「次はコレだよう!」
 と笑った。
「な、何!?」
 脅える舟木のお腹に赤いコードをたらした。
「ぁぁっ、あああああああああぁあぁあああぁ!!!」
 舟木の体に体験したことのない痛みが走った。
気絶しないのが不思議なくらいの痛みだった。
すぐに安藤がコードを持ち上げたが痛みは全然、残っていた。
「はぁはぁ は  はー、はぁ   は ははぁ」
 息遣いも何だかおかしくなる。そこに
「どうだった? 電気ショック。すげーだろ。」
 安藤の陽気な声が響く。
  もう、この状況を希望的に考えるのは不可能のようだった。
「じゃ、行くよ。もう一回♪」
 安藤は再びコードを舟木の上にたらした。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああ!!!!」
舟木の叫びがコンクリートの壁でこだました。


バン! バン!
次に安藤は木刀を持ってきて、それで舟木の顔以外のありとあらゆる部分を思いっき
りぶった。
「あっ」
「うっ!」
「いっ!」
「あうっ!!」
「がっ!!」
 たたかれる度に舟木はあえぎ苦しんだ。もう頭の中では自分が何でこんな目にあっ
ているのか? なんて考えている余裕はなかった。ただ、痛い、苦しい、ツライ、そ
れだけが頭の中をぐるぐる回っていた。


次に安藤は舟木の全身をまるでハムのように縛りだした。
「何するの?」
 もう、叫び過ぎて声も小さな声しか出せなかった。それでも舟木は必死に口を開い
た。そして、安藤は舟木の必死の問いかけに
「これは導火線なんだ。」
 と答えた。
「よく見てごらん、この紐。ところどころ膨らんでるだろう?これ、爆発するか
ら。」
「え?」
舟木がカッと目を見開いたその時、安藤は紐にライターで火をつけた。
「いや、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
 舟木は叫んだ。が、火は止まらない。導火線をたどって火が舟木の体の上を走って
いった。
「あつっ!」
 そして、
バン!
尻のところで小さな爆発が起きた。制服のスカートに穴を開け尻の穴にまで痛みと熱
さが襲ってきた。
「ああ、あぐぅ!!!!!」
 舟木の体が今まで以上に大きく動いた。手錠のせいで手首からは血が出てきた。 
そして、さらに
バン!
今度はお腹のへその上あたりで爆発があった。やっぱり制服のブレザーには穴が開
き、へその中にまで痛みが来た。さらに、
バン!
バン!
 バン!
バン!
バン! バン! バンバン!
体中のいたるところで爆発が起きる。
「はぁはぁ、ははぁは、ん、んああぁ。」
 制服は半分ぐらい焼けてしまい、当然、体の方も半分ぐらい露出した。
「いやっ!」
 自分でも驚きだったのだが、この状況になっても乙女の恥じらいみたいのがあっ
た。
だが、そんな舟木を見て安藤は
「大丈夫、君の処女を奪うようなことを俺はしない。
 あ、君、処女だよね?」
 相変わらず陽気な声でそう言った。
「だから、だからね・・」




舟木が目を覚ました時、まず、自分がうつ伏せにな。っていること、そして全裸に
なっていることに気付いた。
怖かった。さっきまでだって充分怖かったが安藤が何をしようとしているのかが見え
ないためさっきまでよりも不安と恐怖が大きくなった。
カツン 音がした。
「お願い、やめてっ。安藤君!!」
 叫んだが彼から返事はない。今度は何をしようとしてるの?ガクガクと体が震え
る。体・・、そうか、しかも今、私は男の人の前で裸なんだ。服というものには何だ
か守ってくれるようなイメージを持っていた自分にこの状況になって気付いた。
カツン 安藤は舟木の下半身の方に近付いているようだった。身動きもできない、
守ってくれるものも何もない。・・絶望的だった。
しゅぅぁーー
何か思いっきり振った後に開けた缶コーラのような音がした。
そして、次の瞬間
  目の前が真っ白になった。人はあまりの衝撃を受けてしまうとどこで何が起きて
いるのか理解できなくなってしまうんだということを数十秒、経過してから気付い
た。痛みは、まだ全然残っている。だが、何が起こったのかは何となく理解できた。
安藤は自分の尻の穴に何か塩酸だか硫酸のようなものを流し込んだのだ。
「いいねぇ、そのピクッピクッって動き、サイコーだよ。」
 安藤は本当に楽しそうだった。舟木はもう、どうしようもなくなって、まるで小学
生のようにえんえんと泣いた。
どうして、どうして、私がこんな目に・・・
「じゃ、もう一回。」
 安藤が舟木の尻を軽く持ち上げる。そして、その穴にトボトボと液体を入れてい
く。
「いやぁぁあああぁああああああああああ!!!」
 その液体の侵入を阻止しようと一瞬、尻の穴の中に何か膜か壁のようなものが現れ
たような気がした。だが、液体はその膜をあっという間に突き破った。そして、体の
中から溶かされていくような痛みが体を支配した。
「あ、あ、あ、あぁぁあああがああくぐくぁあ!!」
 体が信じられないくらい上下に移動した。手錠により手首、足首の皮が磨り減る。
だが、正直、そっちの痛みは感じられなくなるくらいの痛みが体内に侵入していた。


あれから何時間たっただろう。まだ、体中が痛い。いたるところから血が出ているし
火傷も打撲だってある。この痛みは数時間、ただ横になっていて治るものではない。
「お願い、安藤君、病院に連れてって。」
 舟木はうつ伏せのまま、彼の顔も見ずにお願いしたが、
「駄目だよ。」
 願いは聞き入れてもらえそうになかった。
そして、安藤はさらに、こう続けたのだった。
「君には俺の目の前で死んでもらう。」
 死・・・安藤は自分を殺そうとしている。
私がここで死ぬ?・・・・そんなの
そんなの、絶対に嫌!
だが、自分の運命を自分で決められる状況ではとてもなかった。


気が付くと舟木は再び仰向けになっていた。眠っていたのか、それとも気絶していた
のかわからないがどっちにしろ、意識がない間に安藤は、また何かを考えたに違いな
い。
「やっぱりさぁ・・。」
 安藤の目の前には、まるでキャンプファイヤーのように赤い火がごうごうと燃え上
がっていた。その火を見つめながら安藤はこう言うのだった。
「こっちの方が君の表情が見えやすくてイイねぇ。」
 舟木はもう何の感想も持てなかった。頭の中はカラッポで怒りも悲しみもなかっ
た。
安藤は先端が鋭く尖った鉄の棒の先端を火の中に入れた。
しばらくして、
「もうイイか。」
 と呟きその棒を持って再び舟木に近付いてきた。そして、その時、まるで死んでい
ないだけだった舟木にふいに感情が戻ってきた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」
 恐怖、あのまま、気がおかしくなっていた方が良かった。そう思ったが遅かった。
安藤は高熱で赤くなった鋭い鉄の棒を舟木の尻の穴に突っ込んだ。
「ぎゃぁあああああああああああぐああああ!!!!!!!!!!!」







「う・・」
 目を覚ますと安藤の姿は見えなくなっていた。さっきので気を失っているうちにど
こかへ行ってしまったようだ。
とりあえず、彼がいないことにホッとしたが体中の痛みはどうしようもないぐらいヒ
ドイものがあった。何で、こんなことになっちゃったんだろう。
  ふと、学校でのことを思い出した。
「このゴミ!」
「あんたはゴミなんだよ。」
 皆、私のことをゴミだと言った。そして、今や私はボロボロの本当の生ゴミみたい
に・・
私はゴミだから、こんな目にあっているのだろうか?
いや、違う!
  私はゴミなんかじゃない!!
   そうだ、こんなところで死んでたまるか!
 舟木は決心した。安藤のいない今しかチャンスがない。
「くっ!」
 舟木は手を手錠から思いっきり引っ込める。痛い、手首の皮がズルズルと破けてい
く音が耳に入っていく。  やっぱり、駄目か・・
「このゴミ!」
 違う、私はゴミなんかじゃない!!!!!
  ズルッ!!
 手錠から血まみれの手が開放された。・・そうだ、これでイイんだ、私は外に出る
んだ!!
ズルッ  ズルッ   舟木はその調子で両手、両足を血まみれにして手錠から逃れ
た。
 ばん!とベッドから飛び降りる。
問題はこの後だ、舟木は鉄の扉を見つめる。鍵ぐらいかけてあるだろう、どうやって
ここから出るのか・・
しかし、その扉をいじっていたら舟木は驚くべき真実を知った。
鍵がかかっていない。
「やった!!」
舟木は思いっきり扉を押す。体のどこからか赤い血が飛び出してきたがそんなこと
は、どうでも良かった。
思いっきり、思いっきり全力で押した。
ギィ
 扉が開いた。


だが、扉の前にはダラダラとよだれをたらした犬が五頭、そして、その後ろには笑顔
の安藤が立っていた。
犬は舟木の方をジッと見ている。舟木には直感的にわかった。この犬はおとなしい犬
などではなく血に飢えた野犬なのだ。
犬達は、一歩、一歩と舟木に近付いてくる。
「このゴミ!」
「このゴミ!」
「このゴミ!」
 机の上に赤いペンキで書かれた文字、(もう、学校、来んな、ゴミ!!)
舟木は現実に目の前に起こっている展開に絶望した。
犬達は今にも舟木に飛びかかろうとしていた。

このゴミ!
このゴミ!
このゴミ!
このゴミ!
このゴミ!
このゴミ!

私は、ゴミじゃない!!!!!!
















金子修也













「いや、ホントに昨日のオナニーは最高だったゼ。」
 新井辰則は真剣な表情で俺にそう言った。
「いや、そんな真剣に、んなこと語ってもらっても・・」
 俺は小声でそう言った。ここ、高校の教室にはうじゃうじゃ女子もいるわけだし、
あんまり大声で話すべき話題ではないだろう。だが、新井はそんな俺の気持ちを知っ
てか知らずか、とても大きな声で
「いやぁ、ほら、ここ三日、抜いてなかったからさぁ・・。」
 なんて語り出した。仕方ないので、
「おい、女子だっているんだからもっと小声で話せよ。」
 と忠告しておく。
「おう、じゃぁな、それで昨日、そーさんから借りたエロビを見ながらさぁ、」
 新井は、ほんの少しだけ小声になって話し出した。本当はもっともっと小声で話し
てほしいところなのだが、面倒なのでそのまま、新井に語らせることにした。
「ほら、俺ってさぁ、修学旅行中とかも含めて、オナニー、覚えた時からやらなかっ
た日が一日もなかったからさぁ、で、初めて三日間オナニーをガマンした後、抜いた
時の気持ちよさったらなかったねぇ、まさに極楽天国だねぇ。」
 なんだって、俺は学校で朝っぱらから、こんな話をしてるんだろう。窓の外を見れ
ば空は青く、小鳥が飛び交い、女子高生が・・
  女子高生!? そう、男にとっては空や小鳥なんかよりは若い女が一番である。
「しかも、精子が30センチぐらい宙に飛び上がりやがってよぅ。」
 まぁ、俺も新井のことなんて言えないかぁ・・、隣で熱く語る新井を見ながら俺は
思った。
「で、そーさんから借りたビデオってのはどんな内容なんだよ。」
 一応、これは確認しておかねばなるまい。俺はあくまでも冷静に聞いた。
「はみ出しパイパインってやつ。」
 ああ、それは・・
「それは、俺向きじゃねぇわ。俺、巨乳、ダメなの
よ。」
 そう、俺は巨乳が苦手だ。特別、小さいのがイイとも思わないけどあんまりデカイ
と正直、嫌だ。何ていうか、人間ではなく牛か何かのように見える。まぁ、大体の男
は胸の大きい女のが好きなのだから俺みたいなのがいるってことは良いことなんだと
思う。 そう、男が十人いりゃ十人の好み、性癖みたいなものがあるのだ。
「そうだよなぁ、金子は巨乳、ダメだもんなぁ」
「だから、デカイ声で話すなって。」
 新井の声のボリュームが、また大きくなってきたので俺は再び注意した。
「じゃぁ、そーさんにオススメのビデオでも聞いてみない?」
 新井はせかすように、そう言った。そーさん、こと宗田徹はレンタルビデオ屋でバ
イトしているので映画とかは当然、アダルトビデオにも詳しいのだった。
「金子、何の話してんの?」
 そこに同じクラスの寺島漣が話し掛けて来た。
「いや、そーさんに何かオススメのビデオでも聞きに行こうかって話。」
 オナニーの話をしていたってのもどうかと思い、そんなふうに答えた。まぁ、別に
嘘じゃないし。
「ふーん、じゃぁ俺も付き合うよ、リリースされるか気になってたビデオもある
し。」
 寺島はそう言った。



昼休み、新井、寺島、そして俺、金子修也の三人は何故か一列に並んで隣の隣のクラ
スのそーさんに会いに行った。ちょうど、背の低い順に並んでいるなぁ、気付いてな
かったけど、寺島は薄く髪を茶色に染めてるんだ、新井は相変わらず猫背だなぁ・・
後ろを歩くのはいろんなことに気付けるから好きだった。
「そーさん!」
 新井が叫んだ。まったく騒がしいヤツだ。もっとも自然に出来る友達グループには
こういう引っ張っていくタイプはいた方がイイのだろう、俺の友人、寡黙な空手家の
染田ひろゆきも、いつも小説を読んでいるか書いているかの中沢健もさらに鬱病の大
竹忠士などどいつもこいつもグループを引っ張っていくタイプではない。
「何?」
 そーさんは、机の上でサンドイッチを袋から開けようとしているところだった。
「いや、キタノレンタルでバイトしてる、そーさんにビデオのことでも教えてもらお
うかなぁ・・と思って。」
 俺は、そう言って適当に近くにある椅子を運んでそーさんの近くに座った。残りの
二人もそれに習う。
「何かオモシロイの、最近ある?」
 寺島がそーさんのサンドイッチをうまそうに見ながら、質問した。
「タイタニックとか?」
 そーさんの答えに三人とも首を横に振る。
「そういう誰もが知ってるのはイイからマイナーなのとか意外と見たらおもしろいの
教えてよ。」
「ああ、キラートマトとか?」
 そーさんは納得する。ちなみにキラートマトとはジョーズがトマトになったように
考えればイイような映画で俺も、そーさんに薦められて見たのだが、これがけっこう
オモシロイのだった。もっとも新井は最低の映画とか言ってたんで実際には見る人に
よって随分、印象も変わるタイプの映画なのだろう。
「まぁ、オススメって言っても、皆の好みがあるからなぁ、寺島はホラー、金子は怪
獣映画、新井はエロと。」
「それじゃ、俺がエロのことしか考えてないみたいじゃねぇか。」
 新井が不服そうに言った。まぁ、新井はともかく俺はそーさんの言う通り、怪獣映
画が大好きだ。ものごころが付いた時にはすでにゴジラやガメラの大ファンだった。
ウルトラマンなどのヒーローも嫌いではなかったがそれ以上にやられ役である怪獣に
惹かれるものを感じていた。昔は怪獣について話す友人がたくさんいたのだが段々、
そう言った話に乗ってくれる友人もいなくなっていった。怪獣物=子供だまし なん
てイメージが世間には植え付けられてしまったからだろう。17歳の俺だって充分、
楽しめるというのに・・。
「そーさん、何か新しい怪獣物ない?」
「洋画でならちょっとはあるけど。」
「洋画かぁ、でも洋画の怪獣ってちょっとなぁ・・。」
 俺がガッカリしているとそーさんはニヤリと笑い、
「そーいやよ、この前、杉山がよぅ、魔女ッ子ツージーを借りていったゼ。」
 愉快そうにそう言った。
「マジ!?」
 三人は身を乗り出す。杉山は学校でもどちらかと言うと不良タイプの男で魔女っ子
物なんかを借りるような印象はない。
「へー、杉山ってそういう趣味あったんだ」
 そう言うと新井が
「いや、妹とかに頼まれたんじゃねぇの?」
 と冷静に分析して言った。なるほど、そういう考えもあるかもしれない。でも、そ
れじゃ、あんまりおもしろくない。
「そうだ、おまえ等もバイトしねぇ?レンタルビデオのバイトっておもしろいぜ。」
そーさんは手招きのポーズをとりながら言った。
「楽しい?」
「ああ、コンビニでレジうったりするより全然、おもしろいぜ。」
 そーさんはニヤニヤと笑いながら小声になる。
「レンタルビデオ屋をやっていておもしろいのはエロビデオを借りに客が来た時だ
な。」
「それの何が楽しいのさ?」
 寺島が問う。
「いやさぁ、コイツ、こんな顔してるけど、こういう性癖、持ってんだってわかる瞬
間ってドキドキしねぇ?」
「性癖?」
 俺はつい声のボリュームを大きめに言ってしまった。慌てて手のひらを合わせ神社
にお参りするポーズでスマンと小声で謝った。
「うん、で性癖なんだけど、マジメな顔した男がレイプ物とかロリコン物とか看護婦
物とかいろいろ借りていくわけよ、それが楽しくてさぁ、ああ、こいつはこんな趣味
なんだーーって。」
「何か悪趣味やなぁ・・。」
 俺は思わずつぶやいた。自分がビデオを借りる時もこんなふうにいろいろ、見られ
てたら何か嫌だ。そんなことを思った俺とは対照的に新井は
「ああ、それ、マジに楽しそうじゃん!」
 と興奮して答えた。そして、残った寺島は
「でも、ロリとかレイプ好きの人はまだイイよ。」
 と突然、暗いトーンで言った。
「どういうこと?」
 新井が最初に疑問を口にした。
「いや、俺の性癖って・・・・・うーん、」
寺島はそこで恥ずかしがって声が出なくなった。
「どうしたん? もう、こんな話、照れる年頃でもないじゃん?」
 新井はあくまでも軽いトーンで言った。
「うん、でも何つーか悪趣味だからさぁ。」
 寺島は弱いトーンでそう言った。


キンコーンカーンコーン  今日の授業も終わった。一時期、チャイムの音が変わっ
た時期もあったのだが、やはりこっちの音じゃないと学校って感じがしない。
「さてと、帰るかぁ。」
 高校生になってからは中学までと比べて自転車、電車、徒歩とやたら登下校が面倒
になってしまった。よく考えると高校に行って帰るだけでも合計すると3,4時間ぐ
らいかかっている。この時間を何か有効に使えないものか・・
「寺島、帰り、本屋さんに行かない?」
 俺はカバンに教科書をつめている最中のクラスメイトに声をかけた。


「でさぁ、ヘドラっつーのはホラー好きの寺島だってマジに気に入るって。」
 俺はいつものように寺島とペチャクチャと話していた。 さっきの昼休み、寺島は
結局、何も話してくれなかった。でもまぁ、そのことについてしつこく聞く気もな
かった。まぁ、誰にだって人には言えないことの一つの二つやあるものだ。そんなこ
とを考えていたその時
「金子ってさぁ、エロビデオでオナニーできんの?」
 唐突に寺島が言った。
「はぁ? そりゃまぁ・・。」
 いきなりの質問だったので正直、何て言えば良いのかわからなくなった。そりゃ、
男なんだからエロビデオを目にすれば理性が今はマズイと忠告を発してもチンポは勝
手に巨大化してしまうものだろう。俺は何かのギャグなのかな?と思い、寺島の顔を
見た。寺島は笑っていた。
「俺、エロビデオじゃ興奮しないんだよねぇ。」
 笑いながら寺島はそう言った。
「はぁ? 何のジョークだよ!?」
 俺はとりあえず寺島と同じように笑ってそう言った。
「いや、俺、マジにエロビじゃチンポが立たんのよ。」
 寺島は軽いトーンで言う。さらに続けてこう言った。
「俺、かわいい、それも日本人の女が無残にも殺される映像を見ると興奮するの
よ。」
「マジ?」
 正直、言うと別にそれ程、驚きはしなかった。人にはいろんな性癖があるってのは
本やテレビで聞いていたし、そういう趣味の人がいたって別に構わないだろう。
まぁ、寺島の気持ちもわかる、ちょっと恥ずかしいことを友人にカミングアウトする
時にはやっぱり、相手の反応ていうものを必要以上に気にしてしまうものなんだか
ら、そう、女が死ぬところで興奮、ん?   女が死ぬ?
「な、何!? オマエ、殺人願望とかあんの?」
 俺は時差ぼけのように間を置いてビックリした。別に幼女が好きとか、近親相姦が
好きとか足が好きとか、うなじがたまらねぇとかならわかる。でも、女が死ぬのが好
きって?
「何、オマエは俺がセックスしたいってのと同じように女を殺してぇーーとか思うわ
け?」
 そう言うと寺島は首をブンブンと横に振り
「違うよ、実際の殺人とかは嫌だよ。作り話、フィクションで女が死ぬ・・、まぁ、
ただ死ねばイイってもんでもないんだけど、そういうので興奮するんだよ!」
 と慌てて言った。
「ふーん、変わった趣味やねぇ。」
 俺はあくまでも冷静に言った。
「でもさぁ、そういう趣味を満足させる作品ってあんまりなくてさぁ、とりあえずは
エロビ程はないねぇ。」
 寺島はため息をついた。
「だからさぁ、自分でそういった趣味を満足させる作品を撮るしかない・・と思っ
て。  金子は将来、映画監督になりたいって言ってただろ、だから最初は金子に俺
の性癖を言っておきたかったんだ。」
 そう、俺は小さい頃からずーっと映画をつくる人になりたくて友人にもそのことは
よく言っていた。 そして、俺は自分の尊敬する一人の監督の一言を思い出したの
だった。
戦場のメリークリスマスなど、俺も大好きな映画を何本も撮った大島渚の一言
  (たとえ百人中、九十九人が不快だと思う表現だって自分が表現したいと思った
ことなら表現する。)
初めて、その言葉を聞いた時、俺はものすごい感動したのだった。
 というのも、この時は知人に言われたある一言に深く落ち込んでいた時期で、それ
は大好きな怪獣映画を批判されたからだったのだが、いつものように子供だましと
か、インチキ、チャチい、みたいな批判だったら大して気にしなかったのだが今回は
怪獣映画って悪趣味だよね。
と言われた。
怪獣映画って街が破壊されて人がいっぱい死ぬのを喜んで見せるんでしょう、ものす
ごい暴力的な悪趣味な作品じゃない?
正直、怪獣映画が悪趣味だなんて小さい頃から一度も考えたことがなかった。でも言
われてみれば破壊が売りの怪獣映画を楽しむのは悪趣味って気がする。
その言葉を聞いてから自分が信じていたものに裏切られたような気持ちになり落ち込
んでいた時に大島渚のさっきの言葉をテレビのトーク番組で聞いたのだった。
(たとえ百人中、九十九人が不快だと思う表現だって自分が表現したいと思ったこと
なら表現する。)
 その時の感動を俺は未だに忘れない。そして、俺は改めて映画監督は素晴らしいと
思ったのだった。それから、俺はロリコンとかアニメオタクとか似合わないコスプレ
をしている人を見ても今までのように軽蔑しないようになった。人に害を与えなけれ
ばありとあらゆる表現を認める。映画をつくる人は、そうあるべきなのだ。  そう
考えると映画監督ってのは差別をしない、とっても優しい人間がなる職業なんだなぁ
・・と思う。


そう、だから俺は
「イイじゃん、人と違う趣味を持つってのは弱点じゃないと思うぜ。その趣味はオマ
エの一番の武器になるよ。」
寺島にも明るく、そう言った。


それにしても、世の中にはいろんな人がいるんだなぁ、よく全ての人が楽しめる映画
をつくりたいとか言う人がいるけどこんなにいろんな趣味を持つ人間、全てを満足さ
せる作品なんて不可能な気がしてきた・・。



それから、俺は寺島とはお互いに自分の撮りたい映画の企画とかをよく話すように
なった。
「でさぁ、少女の思いのこもった折り紙、折鶴とか恐竜とかがウルトラマンと戦うん
だ、何か絵的にシュールで良くない?」
「ああ、それ、おもしろそうだね。ウルトラは話もそうだけど怪獣にインパクトなく
ちゃね。」
「うん、しかも紙製だから気ぐるみ怪獣程の予算もかからないだろうしね。」
朝っぱらから俺はテンションが高かった。寺島は怪獣物に特別、詳しいわけでもな
かったのだが話の展開や絵にインパクトがあるか、ないかと言った話を非常に真剣に
語ってくれた。
「寺島はどんなん考えてるの?」
俺が聞くと寺島は両目をキラキラと輝かせて
「宮沢賢治の、注文の多い料理店をリメイクしたいんだよね。」
と答えた。正直、意外なアイディアだった。
「何で、それを撮りたいの?」
 聞くと
「うん、まず設定だけど、狩人から女子高生に変更します。女子高生があのレストラ
ンに行って、まぁ原作どうりに進むんだけど、犬もいないんで最後は・・・・・女体
盛りにされてしまいます!!」
 と答えた。
「なる程、そういうオチねぇ。でも宮沢賢治好きからはものすんげぇ、たたかれるよ
うな話だなぁ。」
 割と冷静にそう言ったもののアイディアは悪くないような気もする。友人だから甘
くなってんのかな?
「そうだね、リメイクじゃないのもあるよ。バレンタインの日にモテない男が今年こ
そチョコをもらおうと決心するんだけど、その日、まぁいわゆる少女漫画に出てくる
ようなすんごい思いを込めたチョコを渡そうとしてる女の子が出てきて、彼女はなか
なか勇気が出なくてチョコが渡せないんだけど、そうこうしているうちに今年もチョ
コをもらえそうにないモテない男は、その少女に、チョコくれ、チョコが欲しいって
言うんだね、当然、彼女は断るんだけど男はチョコを奪おうとする。で、必死にチョ
コを守る彼女を殺して、彼はチョコを手に入れる。めでたし、めでたし。」
「ちっとも、めでたくないよ!」
 一応、ツッコミを入れておく。でも、何となく寺島のやりたいこともわかってきた
ような気がしてきた。
「こんなんもあるよ。」
 何だか熱い男、寺島漣はまだまだ語る。
「これはオリジナルビデオ、まぁVシネだね。っていうか売り方としては今のアイド
ルビデオに近いものを想定してるんだけど、ストーリーーとしては好きな女が殺され
る映像を見たいって依頼を受けた男がその女を拷問の末に殺して、その様子をビデオ
に撮っておいて依頼者に渡すって内容なんだけど、殺し方とか最後の意外なオチとか
100パターンぐらいは考えてるんだ。」
・・・・・・こんな感じで二人は朝っぱらから物騒な話題で盛り上がるのだった。

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